RFIDの通信距離とは、リーダーライターでRFIDタグ(ICタグ)を読み書きできる距離のことを意味します。
通信距離は、短いもので10cm前後、長いもので10m(読取り時)とされています。ただし、研究開発によって、RFIDの通信距離は、年々少しずつ伸びています。
RFIDはアパレルで普及をしており、製造・物流・リース・航空・医療など様々な業界に広まり始めています。この記事をお読みになられている方も、RFIDの導入を検討していることでしょう。この記事では、RFIDの通信距離に関する基礎知識と最新情報をご案内します。ぜひ、参考にしてください。
RFIDの通信距離の3つの要因
RFIDの通信距離は「通信方式」・「電波出力」・「タグやリーダーライターのアンテナ利得状況」の主に3つの要因で決まります。
通信方式
RFIDは、無線技術を用いてリーダーライターでタグを読み取るものですが、通信方式には「電磁誘導方式」と「電波方式」があります。それぞれの通信方式には、2種類の周波数帯が設定されています。それぞれ通信距離と特徴が異なり、利用目的に応じて通信方式を選ぶことが重要になります。
■電波誘導方式
・LF帯(通信距離:約10cm)
LF(Low Frequency、長波)帯は、他の通信方式と比較すると、古くから使用されています。例えば、時計型リストバンドやキーホルダーなどの無線通信に使用されています。長い歴史のあるタイプのRFIDですが、アンテナの巻き数を多く必要とするため、残念ながら薄型化や小型化ができません。
・HF帯(通信距離:約50cm)
HF(High Frequency、短波)帯は、周波数13.56MHzのと短波を使用し、人や商品を1対1で認証する作業で高い効果を発揮します。また、同じ電磁誘導方式のLF帯と比較するとアンテナの巻き数が少ないため、薄型化・小型化も可能です。近年、普及している電子マネーに搭載されているNFC(Near Fired Communication)もHF帯です。
■電波方式
・UHF帯(通信距離:約5~10m)
UHF(Ultra High Frequency、極超短波)帯は、周波数860~960MHzの極超短波数を使用した通信方式で、通信距離が長いため、複数のタグを一括で大量読取りしたい業務に向いています。そのため、アパレルの棚卸しや物流の入出荷検品、製造業の固定資産管理などにUHF帯が多く使用されています。
通信方式 | 通信帯 | 通信距離 | 使用例 |
電磁誘導方式 | LF帯 | 約10cm | 時計型リストバンド、キーホルダー |
HF帯 | 約50cm | 電子マネー | |
電波方式 | UHF帯 | 約5~10m | 在庫管理や入出荷検品 |
UHF帯は他方式に比べて読取り距離が長く、人手不足が大きな課題となっている倉庫、店舗、工場などの現場で活躍の場を広げています。技術進歩や需要増加によるRFIDタグの価格低下を背景に急速に普及しており、以下では、UHF帯を中心にご紹介します。
リーダーライターの電波出力
ハンディ型や据置型など種類が豊富なリーダーライターが存在しており、それぞれ電波出力が異なります。電波出力は10mWや250mW、高出力の1Wの製品など様々です。リーダーライターの電波出力が強いほど通信距離は長くなります。250mW以下は特定小電力のため総務省への申請が不要ですが、それ以上の電力を使用するRFIDシステムを導入する場合は、総務省に構内無線局の申請が必要です。
用途に応じて選択すべきリーダーライターは異なります。詳細は以下の記事をご参照ください。
タグやリーダーライターのアンテナ利得状況
RFIDアンテナとは、効率よくタグを読み取れるように電波を一定の方向に集束させる仕組みになっています。アンテナ利得とは、集束させた時とさせなかった時の効率性の差を表しており、電波を受信する場合の効率性を数値化したものとなります。単位はdB(デシベル)です。アンテナ利得の数値(dB)は、数値が高ければ高いほど性能が良いことを意味し、電波をキャッチしやすくなります。しかし、利得の高いアンテナは向ける方向に注意が必要で設置が難しく、直接波と反射波が合成したポイントのタグを読み込まない現象(マルチパス現象)が発生することがあるため、タグやリーダーライターの選定の際は、メーカーやタグベンダーにご相談ください。
アンテナの種類やメーカーについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
通信距離が長いUHF帯RFIDのメリット
UHF帯RFIDであれば遠距離のタグを読み込めるため、様々な恩恵を受けられます。ここでは、UHF帯RFIDを利用するメリットについて3つご紹介します。
メリット1:棚卸し・入出荷作業を大幅に効率化できる
RFIDは通信範囲内にある複数のタグを一括で読み取ることができるため、様々な業務を効率化できます。バーコードの場合は、商品ごとに読み込まなければならないため、どうしても非効率な読取り時間が発生してしまいます。しかし、RFIDを導入すれば、入出荷検品や棚卸しなどの業務時間を一般的に10%~20%へ削減できます。その結果、接客などより付加価値を生む業務に集中することができます。
具体的な導入事例とその効果については以下の記事をご参照ください。
メリット2:作業員の安全を確保できる
RFIDの通信距離を利用すれば、通信範囲内にある複数のタグを一括で読み取ることができます。遠距離にある商品の情報も読み込むことも可能です。高所にある商品情報を取得する際に、脚立などを使用しなくて済むので、作業者の安全確保に繋がります。
メリット3:ロケーション管理を効率化できる
大塚商会の調査によると、作業中に探し物をしている時間は年間150時間にも達します。探し物で失っている時間は結構あるものです。この問題もRFIDを利用することで解消することができます。RFルーカス社のLocus Mappingは、ハンディリーダーでRFIDタグを読み取るだけで、在庫・物品の棚卸しだけではなく、各々の位置を自動取得してデジタルマップ上に表示できます。また、P3Finderは水平方向、垂直方向、および距離をレーダー表示します。紛失物の探索やサイズや色違いの商品の探索などに役立ちます。
■バーコードでは実現できない非接触性
RFIDの大きな特徴として、非接触性が挙げられます。バーコードのようにリーダーにタグを直接当てなくても、データを読み込んでくれます。この非接触性というメリットを活かすためには、タグとリーダーライターの電波の通信距離を適切に管理しなければなりませんが、うまく活用すれば高所にあるタグの読取りや探索時間の短縮に大きく貢献してくれます。
RFIDを導入するときのポイント
業務効率化に最適なRFIDですが、導入時には注意点があります。ここでは、RFIDを導入する際のポイントをご紹介します。
①目的に応じて最適なRFID機器を選ぶ
RFID機器は、様々な種類のものが登場していますが、特徴や価格帯が異なります。そのため、導入する場合は「どのようなものを読取りの対象とするのか?」「どのような環境で使用するか?」に応じて、最適なものを選ばなければなりません。
例えば、RFIDハンディリーダーには、円偏波と直線偏波(水平偏波と垂直偏波)と呼ばれる電波出力の方法に違いがあります。円偏波は下の一つ目のイラストのように、電波が円を描くように出力されるため、様々な方向のRFIDタグでも読み取りやすい特徴があります。一方で、二つ目と三つ目のイラストのように、直線偏波(水平偏波と垂直偏波)は読み取りやすいタグの向きが限られていますが、読み取り距離が比較的長い(製品によりますがプラス数メートル)です。
最近は円偏波のハンディリーダーが増えています。また、デンソーウェーブ社のSP1のように直線偏波でも、水平偏波と直線偏波を高速で切り替えながら電波を出力することで、円偏波のように様々な向きのタグを読み取りながらも、長い読み取り距離を実現する製品が登場しています。ハンディリーダーの詳細については、「RFIDリーダーの価格や選び方を解説!最新のスマホ搭載型ハンディリーダーを一挙公開」をご覧ください。
②信頼できるメーカーやタグベンダーに相談をする
上記のように、通信距離は「通信方式」「リーダライターの電波出力」「タグやリーダーライターのアンテナ利得状況」の3つの要因で決まりますが、これらの関係を一般の方が熟知することは簡単ではありません。高出力のリーダーライターを使用する場合は、総務省の構内無線局の申請をしなければなりません。また、利得が高い数値のアンテナは設置に注意が必要です。そのため、導入する場合は、信頼できるメーカーやタグベンダーに必ず相談してください。
失敗しないRFIDタグの選び方は以下の記事でも詳しく解説しています。
③導入前に読取りテストを実施する
RFIDの通信距離は使用する環境にも影響を受けますので、導入前には読取りテストを必ず実施してください。対象のRFIDタグが最適な距離から正確に読み取れるか、通信距離が長すぎて読み取りたくないRFIDタグまで読み取ってしまわないか確認した上で導入するようにしましょう。
RFIDの通信距離の将来性
電池なしのタグ(パッシブタイプ)で、長距離・一括読取りが可能なUHF帯RFIDの普及が、アパレル以外に物流や製造にも拡大しています。研究開発によって、今後も読取り可能な距離の増加が予想されています。実際にRAIN RFIDの研究開発によると、2025年度までには約16mまで伸びると公表されています。これらの技術を活用すれば、対象物がどこにあるのか、より遠隔から高精度に特定でき、業務の効率化が見込めます。
まとめ
ここでは、RFIDの通信距離について説明をしました。UHF帯RFIDの登場により遠隔からの読取りが可能となり、大幅な業務効率化を実現しています。RFIDの通信距離は「通信方式」「リーダライターの電波出力」「タグやリーダーライターのアンテナ利得状況」の3つの要因が絡み合うため複雑です。そのため、利用目的や使用する環境に応じて、最適な通信距離のRFIDを選ばなければなりません。RFIDの導入を検討している場合は、メーカーやタグベンダーに相談しましょう。以下の動画も参考にしてみてください。