2020年3月、NTTドコモは「2020年3月31日をもってNB-IoTサービスの提供を終了する」と発表しました。
参考資料:「NTTドコモ」IoTサービス向け通信方式「NB-IoT」の提供終了について
「NB-IoTは国内のインフラを支える通信方式になる」このように期待されていた通信規格は、今まさに転換期を迎えています。
しかし、NB-IoTは海外では普及が進んでいる通信規格であるため、「日本での普及は今度どうなるのだろうか?」と関心を寄せている方も多いのではないでしょうか。
そこで本稿では、
- NB-IoTとは何か?またその特徴は?
- NB-IoTの活用事例
- セルラーIoTの市場規模
- NB-IoTの海外・国内動向
に触れ、国内におけるNB-IoTの将来性を考察します。
NB-IoTとは
NB-IoT(NarrowBand IoT)とは、2016年に3GPP(※1)で標準化された通信規格です。
携帯電話(Cellular Phone)と同じ通信方式(セルラー方式)なので、「NB-IoTはスマートフォンと同じ仕組みで通信する」とイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。
NB-IoTの特徴
NB-IoTの特徴は「低速」・「低価格」の2点です。
NB-IoTと比べた場合の5Gの通信速度は、上りは約30,000倍、下りは約3,800倍です。NB-IoTがいかに低速か分かります。
【通信速度比較】(※ソフトバンクの場合)
通信規格 |
上り |
下り |
NB-IoT |
63(kbps) |
27(kbps) |
5G |
2.0(Gbps) |
103(Mbps) |
また、NB-IoTは驚くほどの低価格で利用できます。ソフトバンクは、月間データ量が10KBまで10円というプランを打ち出しています。
参考資料:ソフトバンク「日本初、NB-IoTの商用サービスを開始」
NB-IoTは、「通信データ量が少なく、高速通信が不要なケース」に適した通信規格なのです。
NB-IoTの活用事例
ここでは、「低速」・「低価格」の特性を活かしてNB-IoTがどのように使われているか、活用事例を3点ご紹介します。
事例①:罠センサー「スマートトラップ」
鳥獣保護法に基づき生物を傷つけないように捕らえる罠や、アライグマやヌートリアといった外来種特定外来生物を捕獲するための罠など、様々な罠が商品化されています。
しかし、「従来の罠は、捕獲状況を定期的に確認しなければならない」、「罠センサーはあるが、導入コストが高い」といった課題を抱えていました。
このような課題を解決するため、ハンテック社は通信費用の安価なNB-IoTに注目し、捕獲情報を通知する罠センサー「スマートトラップ」を開発しました。
動物が罠にかかった時だけNB-IoTで通信を行うため、他の通信規格に比べて通信量を抑えられます。同製品は月額980円で利用可能です。
「罠の見守りが不要になる」、「捕獲データはクラウドに保存されるため、捕獲しやすい時間帯を分析できる」などのメリットがあります。
事例②:トラッキングデバイス「HUAWEI Locator」
2018年8月、ファーウェイはNB-IoT内臓のトラッキングデバイス「HUAWEI Locator」を発表しました。必要な時に「今、どこにいるのか?」という位置情報を確認できます。
一例として、ペットの首輪に取り付ける使い方があります。
動物愛護団体によると、年間8万匹以上の犬や猫が迷子になっているそうです。自宅で猫を飼っている方でしたら、ふとした瞬間に外に出ていってしまい必死になって探した経験があるのではないでしょうか。
「HUAWEI Locator」を使用すれば、万が一迷子になってしまった際も追跡できます。NB-IoTは数km~十数kmまで通信できますので、よほど遠くに行かない限りは検知することが可能です。
参考資料:すべてをつなぎ、社会を変えるNB-IoT
事例③:スマート水道メーター「eMeter」
国内の水道事業では、自治体の担当者が自宅に出向いて検針する流れが一般的です。検針後に玄関のポストに入れられる水道料金の領収書は、多くの方が目にしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、「検針に人手がかかる」、「アナログなので利用者にデータをフィードバックできない」といった課題を抱えており、デジタル化が望まれています。
過去には、2018年11月に愛知時計電気株式会社がNB-IoTを利用したスマート水道メーターの検証実験を実施していますが、実用化には至っていません。2017年から実用化が期待されていた「スマート水道メーター」は、国内では普及しない状況が続いていました。
しかし、NB-IoTが誕生して4年、ようやく「スマート水道メーター」が国内に出回り始めたのです。
2020年4月、株式会社リンクジャパンのスマート水道メーター「eMeter」が商用化されました。国内で初めてNB-IoTに対応したスマート水道メーターで、福岡県の春日市と那珂川市の水道事業で導入されます。
水道メーターを撮影し、写真データをクラウドに転送、検針担当者は写真を確認しながら検針を行う仕組みです。月1回の使用で10年間利用可能といいます。
ようやく、国内にNB-IoT対応のスマート水道メーターが誕生したことで、「欧米や中国のように、NB-IoTが国内スマート水道メーターの主要な通信規格となるか?」注目が集まっています。
参考資料:国内初、既存メーターをスマート化する eMeterが商用開始
セルラーIoTの市場規模
携帯電話の通信方式(セルラー方式)に対応したIoTは「セルラーIoT」と呼ばれ、NB-IoTの他にLTEやCat.M1などの通信規格があります。
米国の調査会社Counterpointの報告によると、セルラーIoT接続に対応したデバイスは、2025年までに全世界で50億台を超え、そのほぼ半数がNB-IoT接続となる見通しです。なお、「セルラーIoTデバイス」は、中国の企業だけで60%以上を占めています。
あわせてこちらの記事で国内のIoT市場規模動向について詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
IoTの国内市場規模はRFIDの普及で10兆円を突破するか?
NB-IoTの海外動向/国内インフラを支える通信規格へ
ドイツでは政府が掲げる国家プロジェクト「インダストリー4.0」の一環で、2017年に全土でNB-IoTネットワーク網を構築しています。同国ではスマートメーター、スマート農業、スマート家電など、あらゆるシーンでNB-IoTが利用されています。
昨今は、世界最大の多国籍携帯電話事業会社「ボーダフォン」が中心となり、スペインやアイルランドなど、欧州各国にNB-IoTネットワーク網を広げる動きが進んでいます。
また、中国はいち早くNB-IoTの普及に力をいれています。欧州と同様に、国のインフラを支える通信規格として利用しており、都市部ではスマートパーキングなどにも利用されています。
さらに、これからの普及を目指しているのがインドです。インドは、2020年にスマートメーター、スマート農業、スマートパーキングを推進する計画を発表しました。この通信規格にNB-IoTを利用します。全世界第二位の人口(13億人)であるインドでNB-IoTが普及すれば、NB-IoTデバイスの市場拡大に大きな影響を与えると予想されます。
NB-IoTの国内動向/「スマート水道メーター」の主要な通信規格となるか?
国内のインフラである電気、ガス、水道の内、「スマート電気メーター」、「スマートガスメーター」はすでに商用化が始まっており、通信規格にはWi-SUN(ワイサン)やSigfoxが使われています。
スマート水道メーターは、商用化された「eMeter」が、福岡県の一部のみで運用がスタートしたばかりです。また、水道事業は各自治体ごとに管理されているため、「eMeter」が他県でも使用されるかは各自治体の判断に委ねられています。
NB-IoT以外の通信規格では、NTTドコモが「LTE-M」を使ったスマート水道メーターを北海道旭川市と共同実験しています。NB-IoTが主要な通信規格となるかは、これから数年で決まる見込みです。
NB-IoTにとって明るいニュースが発表されています。
東京都水道局は、東京都中央区の東京2020大会選手村跡地に整備される予定の約6,000戸の一般住宅において、2022年(令和4年)からスマート水道メーターのモデル事業を実施することを発表しました。使用される通信規格はNB-IoTです。
また、モデル事業に先立って東京2020大会の選手村施設にスマートメータを先行導入し、2020年(令和2年1月)からスマートメータの検針データによる定期検針を開始しています。
2020年4月時点では、新型コロナウイルスにより東京オリンピックの開催が不透明な状況なため、計画通りに進むかは分かりませんが、東京を皮切りに全国の自治体に広がっていくことも十分に考えられます。
スマート水道メーターに大きな動きがあるのは、東京のモデル事業がスタートする2022年以降と予想されます。
まとめ
世界のNB-IoT市場は、欧州、中国を中心に拡大を続ける見込みです。
世界各国で導入されている「スマート水道メーター」は、東京都水道局のモデル事業を皮切りに、日本国内に広がっていくでしょう。
しかし、新型コロナウイルスの影響で各自治体の予算がひっ迫すれば、スマート水道メーターの普及が中々進まないこともあり得ます。
そのため、今後数年の間は一部地域でのスマート水道メーターにNB-IoTが使われ、それ以外では「低速」・「低価格」の特徴を活かした限定的な利用になると予想されます。
これからもNB-IoT市場の動向に目が離せません。