2020年、世界のIoTデバイス数は300億個を突破しました。モノのインターネットと呼ばれるIoTでは、これらのデバイスが連動して機能します。
「IoTデバイス同士を繋げる」、「デバイスから収集したデータを解析する」、「セキュリティの脅威からデバイスを保護する」など、IoTサービスを稼働させるための土台の役割を担うのが「IoTプラットフォーム」です。
近年は多くのベンダーがIoTプラットフォーム市場に参入し、様々な製品が登場しています。
しかし、IoTプラットフォームは分かりにくい概念でもあるため、「IoTプラットフォームとは何か?」、「IoTプラットフォームはどのように選べば良いのだろうか?」と疑問をもたれている方も多いのではないでしょうか?
そこで本稿では、
- IoTプラットフォームとは何か、またその役割は?
- IoTプラットフォームの種類
- IoTプラットフォームの選び方
- IoTプラットフォームの主要ベンダー
など、IoTプラットフォームに関する知識を分かりやすく解説します。
IoTプラットフォームとは
「プラットフォーム」の日本語訳は「土台」で、この言葉はIT分野の様々なケースで使われます。
【「プラットフォーム」使用例】
サービス |
プラットフォーム |
サービス例 |
パソコン |
OS |
Windows、Mac、Linux |
スマートフォン |
OS |
Android、iOS |
検索エンジン |
Webブラウザ |
GoogleChrome、IE |
IoT |
IoTプラットフォーム |
AWS、Azure、GCP |
産業用IoT |
産業用IoTプラットフォーム |
LANDLOG、ThingWorx |
パソコンのプラットフォームは「OS(オペレーティングシステム)」で、Windows、Mac、Linuxなどがあります。スマートフォンのプラットフォームも「OS」で、AndroidやiOSがお馴染みです。
プラットフォームとは「サービスを動かすための土台」であり、プラットフォーム無しでサービスは動作しません。
IoTプラットフォームの概念を図に表すと次のようになります。
(出所):『Why Digital Matters? ~”なぜ”デジタルなのか~』図表23デジタル・プラットフォームの「4層構造」を基に作成
IoTプラットフォームは、まさに「IoTサービスの心臓」とも言うべき存在で、IoTサービスの品質を決定づけるといっても過言ではありません。
IoTの基礎知識について詳しく知りたい方は、こちらの記事も、ぜひご覧ください。
「IoTとは?IoTの最新動向と活用事例をわかりやすく解説」
IoTプラットフォームを自社で構築できるのか?
「ベンダーのIoTプラットフォームを使わなくても、IoTサービスを構築できるのでは?」との疑問も沸きます。確かにサービスの形態によっては不要なケースもありますし、自社でプラットフォームを構築すればベンダーとの契約は要りません。
しかし「IoTデバイスからのデータ取得」や「クラウドでのデータ解析」などを全て自社で開発する必要があるため、ベンダーのプラットフォームを活用するのに比べて開発・運用工数がかかります。
IoTでは様々なデバイスとの連携が必要になるケースが多いため、基本的には予め機能が充実しているベンダーのIoTプラットフォームを使ってサービスを稼働させるのが良いでしょう。
IoTプラットフォームの役割
IoTプラットフォームの役割は「IoTサービスを動作させること」です。
IoTサービスは以下の流れで動作し、IoTプラットフォームはこれらを繋ぐ役目を果たします。
【IoTサービスの動作順】
①モノに取り付けたセンサーから情報を収集
②収集したデータを集約(一か所に集める)
③集約したデータを解析し、モノ(ヒト)にフィードバック
上記を「自動運転技術」に置き換えてみます。
①自動車に取り付けたセンサーから、速度や車間距離・位置情報などのデータを収集
②収集したデータをクラウドに集約
③集約したデータを解析し、自動車にフィードバック
①→②及び②→③のプロセスをIoTプラットフォームのサービスを使って実装します。なお、自動運転に関するIoTは「Mobility IoT」と呼ばれ、自動運転に特化したプラットフォームが使われます。
IoTプラットフォームの種類
IoTプラットフォームは、「水平型」、「垂直型」、「オールインワン型」の3つに分類することができます。
①水平型プラットフォーム
「水平型プラットフォーム」とは、業界に縛られずに使えるIoTプラットフォームです。
一例として、パナソニックのプラットフォーム「Vieureka(ビューレカ)」があります。Vieurekaはカメラ映像の分析に特化したIoTプラットフォームで、鉄道・コンビニ・不動産・イベントなど、防犯を必要とする様々な業界での活用が見込めます。
「水平型プラットフォーム」を手掛けるベンダーは、一つの業界に縛られることなく他の業界に横展開することで、シェア拡大を目指します。
②垂直型プラットフォーム
「垂直型プラットフォーム」とは、特定の業界に特化したプラットフォームです。
建築業界向けのプラットフォーム「LANDLOG」や、後ほどご紹介する「Lumada」、「ThingWorx」、「Mindsphere」などの産業用プラットフォームが該当します。
「垂直型プラットフォーム」を手掛けるベンダーは、特定の業界においての機能を充実させることで、業界内のシェア拡大を目指します。
③オールインワン型プラットフォーム
「オールインワン型プラットフォーム」は、「水平型」と「垂直型」両方の特徴を持つプラットフォームです。
Amazonの「AWS」、Googleの「Google Cloud Platform(GCP)」、Microsoftの「Azure」などが該当します。
「オールインワン型プラットフォーム」を手掛けるベンダーは、あらゆる業界で使えるプラットフォームを目指します。昨今はベンダー同士の提携が加速していて、オールインワン型を目指す動きが活発化しています。
IoTプラットフォーム選びで重要な3つのポイント
ここでは、IoTプラットフォームを選ぶ上で欠かせない3つのポイントをご紹介します。
ポイント①:Functionality(機能性)
「IoTプラットフォームに含まれる機能」に注目した選び方です。
例えば、IoTサービスの構築にAIエンジンを使いたいと考えた際に、どのAIエンジン使うのかによって利用するIoTプラットフォームが決まります。
Amazon SageMakerであれば「AWS」、Watsonであれば「IBM Watson」、TensorFlowであれば「Google Cloud Platform(GCP)」を選ぶことになります。
ポイント②:Connectivity(接続性)
「IoTデバイスと繋げられる機能」に注目した選び方です。
例えば、工場内のデバイスに取り付けたRFIDタグとの連携を構築するのであれば、RFID分野のサービスに強いPTCのThingWorxなどが、IoTプラットフォームの候補になります。
なお、製造や物流をIoT化する場合は、産業に特化した「産業用IoTプラットフォーム」を中心に選定を進めると良いでしょう。
ポイント③:Scalability(拡張性)
「データ量に応じてリソースを自動で割り当てる機能」に注目した選び方です。
IoTサービスは、時間帯によってデータ量にばらつきがあります。例えば、自動車運転技術であれば、早朝や夜間に比べて日中のデータ量が多くなるでしょう。工場や物流の生産ラインも同様です。
リソースの自動拡張はほとんどのIoTプラットフォームに搭載されている機能ですが、例えばAWSでは「使ったリソースだけ料金がかかる」従量課金制を採用しているなど、料金体系が異なります。
プラットフォームを選ぶ際には、拡張性の有無に加えて「リソースとコストの関係」を忘れずに比較することが大切です。
IoTプラットフォームの主要ベンダー
ここでは、IoTプラットフォームの主要ベンダー5社をご紹介します。
①Amazon/AWS
Amazonの「AWS」は、PaaS(Platform as a Service)の分野で約40%のシェアを誇る、最も多くのユーザーに使われているIoTプラットフォームです。連携サービスや運用事例が豊富にあるため、初めてIoTプラットフォームを利用する方も検討材料に困りません。ユーザー数が多いため、インターネットで検索すれば情報はすぐに手に入ります。
②Microsoft/Azure
Microsftの「Azure」は、AWSに次いで2番目のシェア(約20%)を誇るIoTプラットフォームです。「Project Brainwave」によるAIのリアルタイム応答や同社のクラウドサービス「Microsoft365」との連携などに特徴があります。
③IBM/Watson IoT Platform
IBMの「Watson IoT Platform」は、Watsonによる高度なAI解析が特徴です。データはブロックチェーンに保管されるため、データ改ざんのリスクが小さく、セキュアなIoT環境を構築できます。
④Google/Google Cloud Platform(GCP)
Googleの「Google Cloud Platform(GCP)」は、機械学習ライブラリ 「TensorFlow」、画像分析「Cloud Vision API」、テキスト分析「Natural Language API」など、Googleが提供している最先端のサービスを利用できます。
⑤パナソニック/Vieureka(ビューレカ)
パナソニックの「Vieureka」は画像解析に特化したIoTプラットフォームです。来店した顧客の顔認証や防犯カメラの解析など、画像処理に関する様々なサービスを提供しています。
産業用IoTプラットフォームの主要ベンダー
産業用IoTプラットフォームとは、産業分野に特化したIoTプラットフォームです。
スマートファクトリーを目指す多くの企業は、IoTサービスの構築に産業用IoTプラットフォームを利用しています。
ここでは、産業用IoTプラットフォームの主要ベンダー5社をご紹介します。
①ランドログ/LANDLOG
ランドログは、コマツ、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムの4社が出資して誕生したIoTプラットフォーム事業会社です。
「LANDLOG」は建設生産に特化したIoTプラットフォームで、長年コマツが培った産業ノウハウがふんだんに詰め込まれており、建材の在庫管理から摩耗状況の解析まで、建設に特化した様々なサービスが利用できます。
②日立/Lumada
日立の「Lumada」は、製造業、運輸業、不動産業など、業界に縛られずに利用できる産業用IoTプラットフォームです。半導体の製造工程自動化や医療装置向けの故障予兆診断など、様々な産業での実績が豊富にあります。
③PTC/ThingWorx
PTCの「ThingWorx」は、MicrosoftやRockwellとのパートナー協定を結ぶなど、企業と提携しながらサービスの拡張を続けている産業用IoTプラットフォームです。昨今はRFIDのチップを製造している米国Impinj社と提携し、RFIDソリューションの普及にも力を入れています。
④シーメンス/MindSphere
シーメンスの「MindSphere」は、徹底したオープン性を追求しているプラットフォームです。ユーザーファーストを掲げ、ベンダーとのパートナー協定を結びながらプラットフォームの機能を充実させています。
⑤GE/Predix
GEの「Predix」は、エッジデバイスとの接続をサポートする「Predix Edge」に特徴を持つ産業用IoTプラットフォームです。昨今ニーズが高まっているエッジコンピューティング関連の機能を充実させることで、他のプラットフォームサービスとの差別化を図っています。
まとめ
IoTの普及に伴い、多くのベンダーがIoTプラットフォームを提供しています。それぞれ特徴があり、運用するIoTサービスごとに適切なサービスは異なります。
ランニングコストはもちろんのこと、連携できるサービスや拡張性を考慮した上でプラットフォームを選択することが大切です。
またIoTプラットフォームの世界規模でのシェアは、アメリカ、中国、ヨーロッパ各国が主流です。サービスの継続性を判断するためにも、ベンダー同士の提携状況を一度確認しておくと良いでしょう。その際、Webメディア「ビジネス+IT」様の記事(※1)がとても参考になります。
(※1):IoTプラットフォームとは何か? 正しい選択をするためのたった1枚のスライド
ぜひ大局的な視点を持ち、自社のビジネスを加速するIoTプラットフォームを選択するように心がけましょう。