【導入事例の解説付き】画像認識AIの仕組みから導入方法までを解説

ミック経済研究所「AI(ディープラーニング)活用の画像認識ソリューション市場の現状と展望【2019年度版】」によると、画像認識AIの市場規模は、2018年度は53億円、2023年度には1,500億円になると予測されています。

年平均成長率95.1%増を続けるなど急成長。製造業で検品検査として利用されたり、人物の顔認証などのセキュリティにも利用されたりしています。実際に、どのような業務効率化・生産性向上を実現できるのでしょうか?この記事では、注目を浴びる画像認識AIについて分かりやすく解説します。

画像認識AIとは

まずは、画像認識AIの仕組みや歴史について解説します。

画像認識AIの仕組み

(1)   画像処理

最初に、コンピュータが画像から特徴を抽出できるように、画像処理を行います。画像を認識しやすくするために、特定の処理(ノイズや歪みの除去・色彩や彩度の調整・物体輪郭の強調)を行います。このような画像処理をすることで、画像情報をコンピュータが読み取れるようにしているのです。

(2)   画像から特徴を抽出

ピクセルデータの画像に対して演算し、特徴量を算出します。高精度な特徴量を算出するためには、質の高い計算モデルやパラメーターを選ぶ必要があります。これらの調整には労力が伴うため、機械学習によって自動化されるようになってきました。特徴量の算出方法として「畳み込み」「プーリング」の2種類の方法があります。

・畳み込み(Convolution)

大量の画像を見せていき「この画像には、このような特徴がある」と学習させていく方法

・プーリング(Pooling)

優先すべき特徴を絞り込んで、その中で値の大きなものを特徴として抽出させていく方法

(3)   画像認識

コンピュータには、大量の画像データを学習させておき、各画像をラベリング化します。ピクセルデータの画像から抽出できた特徴量とラベルを照合していき、画像に何が写っているかを特定します。

画像認識AIの歴史

近年、画像認識AIが注目を浴びていますが、1950年代からAIは存在していました。2012年の大規模画像認識協議会でディープランニングを活用した画像認識の威力が認められて注目を浴び出しました。

第1次ブーム

(推論・探索)

1956年

人工知能の誕生

1963年

機械学習の原型が登場

第2次ブーム

(知識ベース)

1980年代前半

エキスパートシステムの活性化

1980年代後半

ニューラルネットワークの応用研究が活性化

第3次ブーム

(機械学習)

2006年

ディープランニングの実現手法が登場

2011年

IBM「IBMWatoson」がクイズ番組でチャンピオンに勝利

2012年

大規模画像認識協議会「ILSVRC」でディープラーニングの画像認識が圧勝

2013年

GoogleやFacebookが人工知能の研究開発を強化

2016年

GoogleのDeepMind「alphaGo」が囲碁のプロ棋士に勝利

画像認識AIが発展する理由

画像認識AIは、第3次ブーム(機械学習)で大きく発展しました。画像認識AIは、人間と互角の正答率を導き出せるようになってきているため、各業界での実用化が進められています。

また、IoT技術の発展やビッグデータが活用されるようになっていき、画像認識AIの活用の幅は広がっていくことが予想されています。このように、顔認識の精度向上や感情認識技術の確立などの技術的な進歩もあり、画像認識AIは更に注目を浴びて発展していくと予測されているのです。

画像認識AIの種類

画像認識AIは、さまざまな場所で活用されていますが、主に3つの種類に分類されます。

物体検出

物体検出とは、画像や動画に映っている特定のクラスの物体を検出する技術です。特定の属性を持つ物体が存在するかどうかを検出し、存在する場合には位置と範囲まで推論します。

物体検出は、品質管理の効率化が行えるだけではなく、自動運転やロボットなど幅広い分野に活用される技術として大きな注目を浴びています。

顔認証

顔認証技術も注目を浴びていますが、主なタスクは2つあります。

1つ目が、新たに入力した顔データと既存の顔データを照合する「認証」です。顔認証によるスマートフォンのロック解除が良い例です。スマートフォンのセットアップ時に、ユーザの顔データを登録しておくと、顔認証だけでロックを解除することができます。

2つ目が、入力した顔データとデータベースを比較する「認識」です。認識は、監視システムでよく使用されます。空港や国境検問所では、犯罪者の逃亡を防止するため顔認識が採用されています。

文字認証

画像認識AIは、文字認証にも活用できます。AI技術を活用したOCR「AI OCR」が注目を浴びており、文字の補正結果を学習して文字認識率を高められると評判です。

一般的なOCRは、文字の誤認を修正することができません。しかし、機械学習が行えるAI-OCRであれば、文字の誤認を修正することができます。誤認率を下げていき、精度の高い文字認証が実現できるのです。このような効果が見込める「AI OCR」を活用すれば、事務作業などの業務効率化につなげられます。

画像認識AI導入のプロセス

画像認識AIを導入すれば、理想通りの効果が得られるとは限りません。そのため、画像認識AIのプロセスを把握した上で、信頼できるベンダーに相談しながら画像認識AIを導入しましょう。ここでは、画像認識AI導入のプロセスをご紹介します。

認識モデルの精度を決定

画像認識AIでは認識モデルやパラメーターの質を上げることが大切です。これらのAIの仕組みを把握しないまま、大量のデータ収集を開始しても、期待通りの効果が得られず、データ収集の努力が無駄に終わります。そのため、認識モデル精度を上げるための対策をしなければなりません。

ベンダー側と認識モデルの精度について話し合いましょう。認識精度を上げるための対策方法には、主に以下のようなものがあります。

  • トレーニングデータを収集する
  • 特徴量を減らす
  • 特徴量を増やす
  • 高次の特徴を追加する
  • 正規化の係数を小さくする
  • 正規化の係数を大きくする

データ収集してモデルを作成

トレーニングデータや特徴量、正規化の係数の値がどの程度であれば、理想とする画像認識が行えるかを診断していきます。テストデータで検証していき、モデルを作成します。

未知のデータに対して完璧にフィットするかは分かりませんが、モデルを作成していくことで、期待通りの効果が得られないリスクを最小限に抑えられます。

モデル評価を繰り返して精度を向上

モデルを作成した後は、認識精度を上げていきます。認識精度を向上させるためのテクニックは主に3つです。

(1)画像データの収集

画像認識AIの認識精度は、コンピュータの機械学習によって向上します。そのため、さまざまな画像データをコンピュータに読み込ませましょう。

大量の画像データが収集できない場合は、手元画像を回転・拡縮・変形・反転・並行移動などの加工をするだけでも、異なる構図の画像として作り出せます。このようなデータの水増しで画像データを何倍にも増やすことができます。

(2)他分野の学習結果を転用

データの水増しは、手元の画像データが少ない場合に有効な手段となりますが、同じ画像データの流用には限界があります。そのため、他分野の学習結果を転用するのも1つの手段です。

世の中には、大量の画像データが存在しており、一般公開されている画像も存在します。このような画像を利用してコンピュータに学習させれば、AIの認識精度を高めることができます。

(3)大規模なモデルを圧縮する

AI認識精度が上がらない原因として、モデルとなる画像データの量が少ないことをあげましたが、ハードウェアの性能も大きく影響しています。画像データが莫大でハードウェアの性能が低下してしまうと、処理精度が落ちます。このような処理精度の低下を招かないためにも、モデルを圧縮する必要があるのです。

画像認識AIの主要メーカー

画像認識AIを導入するには、信頼できるベンダーを探す必要があります。実際に、どこに依頼をすれば良いのでしょうか?ここでは、画像認識AIの主要メーカーについてご紹介します。

IBM

2011年度に、IBMが独自開発した人工知能「IBMWatoson」がクイズ番組に勝利したことで大きな注目を浴びました。人工知能の先駆者と認識されているメーカーです。IBMの画像認識AIソリューションは、製造業・小売業・金融業・医療業・教育業など多種多様な業種に導入されています。

外観検査の自動化、包装不良検出、作業効率の向上などに活用されており、SOMPOホールディングスや国立スポーツ科学センター、東日本電信電話など、様々な企業に導入されている高精度を実現する画像認識AIソリューションです。

日立産業制御ソリューションズ

日立産業制御ソリューションズの大きな特徴は、ビッグデータを有効活用するためにデータを磨いていることです。このようなデータを磨くための技術を「AI ValueUp」と呼んでいますが、様々な観点や経験、論理的な根拠に基づく加工を行うことで、AI分析力を向上させています。

製造業ではIoTが導入され始めており、機器からデータを収集していきますが、これらの画像データは必ずしも質がよいとはいえません。このようなデータを磨き上げ、高精度な解析が行えるように、各企業のサポートを行っています。

キーエンス

キーエンスは、カメラを製造してきたメーカーです。莫大な数の画像データが学習されているAIが搭載された画像判別センサIV2シリーズを販売・提供しています。

明るさやフォーカス、検出までAIによる自動設定が可能となっており、最低1枚のOK画像/NG画像を登録するだけで設定が完了。導入時間や手間がかからず、簡単に画像認識AIソリューションを導入・運用することができるとして注目を浴びています。

オムロン

産業向け制御機器や電子部品、ヘルスケア製品を展開するオムロンでは、傷・欠陥検査に特化した画像認識AIソリューションが提供・販売されています。

製品の外観検査は、色や大きさ、キズ、付着物など様々な検査項目があり、経験豊富な熟練技能者の感性と経験が必要でした。オムロンは熟練検査員の検査手法を再現したAIを開発し、画像処理システムに搭載。AIファインマッチによる検査を行えば、外観検査時間を大幅に短縮することができます。

東芝デジタルソリューションズ

東芝デジタルソリューションズでは、検査工程の自動化や検査精度の向上が行える画像認識iソリューションが提供・販売されています。

大きな特徴は、拡張性の高さです。既存ラインの改造は必要なく、市販のカメラや照明などの機器を後付けするだけで活用できます。また、画面上で良質モデルの作成や精度検証、検査結果が確認できるなど、操作のしやすさが魅力となっています。

画像認識AIの成功事例

実際に、画像認識AIソリューションはどのように活用されているのでしょうか?ここでは、画像認識AIの成功事例をご紹介します。

[製造業]株式会社東芝

株式会社東芝は、情報・システム研究機構の統計数理研究所と2020年12月に不良原因解析ができるAI「Transfer Least absolute shrinkage and selection operator」を開発。

製品の品質低下は生産コストに影響を与えるため、品質低下が見られる製品の検出、原因の特定、対策を素早く実施する必要があります。

とくに、東芝の半導体の製造現場では、製造装置の経時変化やメンテナンスによる装置の状態、納入される材料の特性変化で品質が日々変動するため、定期的な品質管理が求められていたのです。監視項目は約400にも上り、これらの品質管理をAI解析で効率化。数日かかっていた検査業務を1日に短縮することに成功しました。今後は、様々な分野への適用を発表しています。

参照元:東芝、数日かかっていた精査時間をAIでわずか1日に短縮 専門家は「『これは上手い!』と思った」

[物流業]NTTロジスコグループ

2021年2月、NTTロジスコグループでは、レンタル機器のセット化検品作業において、画像認識AIシステムを導入したと発表しました。

レンタル機器本体・電源アダプターなどのセット化した商品をカメラで同時撮影すると、AI-OCRが製造番号や物品コードを読み取ります。登録済みのマスタデータと照合し、合致した場合は検品完了とされ、物流管理システムに自動的にデータが送信されます。

このようなセット化検品作業を実施して、1人当たりの処理台数の生産性は60%向上、検品ミス0%を達成。また、熟練作業員に依存しない検品体制の確立に成功しました。

参照元:NTTロジスコ/AI画像認識技術を用いた自動検品システム導入

[流通業]イオングループ

2020年10月から、イオングループのイオンフードサプライでは、画像認識AIソリューションを活用した、食品向上の検品業務を効率化させる「リモートラベルチェックサービス」を本格的に運用し始めました。

作業者がタブレット端末のガイダンスに沿って、製品を撮影することで、AIが画像から製品の内容物とラベルが製造指示内容と一致しているかどうかを判定できます。作業者とAIの共同により、作業者の技能や判断に頼らない検品作業を実現。検品時間は従来比の半分となり、生産性向上が見込めています

参照元:イオン、商品ラベルがあっているかAIで判定 時間は従来の半分に

[印刷業]大日本印刷株式会社

大日本印刷株式会社は、文字認識や自然言語処理技術を活用して、契約書や申込書の記載内容の校正・校閲ができるサービス「DNP AI審査」の提供を開始しました。このサービスを活用すれば、契約書や申込書などの記載内容について「ルール通りに記載されているか?」「誤字脱字がないか」をチェックすることができます。

このサービスは、日清食品ホールディングスや明治安田生命保険などに導入されており、サントリーコミュニケーションズは、このサービスを導入して30%の省人化に成功しています。

参照元:大日本印刷、AIで契約書や申込書の内容を確認 50%程度の省力化を見込む

[医療業]聖マリアンナ医科大学病院

聖マリアンナ医科大学では、画像認識AIソリューションを活用した自動ドアの実証実験を開始しています。実証実験は、2021年4月から6月30日まで。カメラ画像から来院者の様態を検知して、自動ドアの開閉スピードや開放時間を制御。エントランスで車いすの利用者をカメラ画像から検知して、安全の向上につなげていくことが発表されました。

参照元:聖マリアンナ医大病院、車いすを検知する自動ドア制御システムの実証実験

まとめ

画像認識AIソリューションは、AI・人工知能の技術の進歩に伴って、様々な業務に活用され始めています。画像認識AIソリューションを搭載して、大幅な業務効率化・省人化に成功している企業も登場しています。IoTや5Gの普及、ビッグデータの活用がされるようになれば、画像認識AIソリューションの普及も加速していくことが予測されます。ぜひ、業務効率化や生産性向上に画像認識AIソリューションの導入をご検討されてみてください。