2020年5月21日、経済産業省は新型コロナウイルスに対する研究開発への支援策を発表しました。
その中の1つに「3Dプリント可能な人工呼吸器実用化プロジェクト」があり、3Dプリンターの活用が注目されています。
参考資料:経済産業省「新型コロナウイルス感染症の対策として、ウイルス等感染症対策技術に関する研究開発の支援を開始しました」
製造現場においても、試作品作成の効率化や生産の自動化を目的として、3Dプリンターの導入を検討する企業が増えています。
そのような中、3Dプリンターの導入を検討する上で、「現在使っている3DCADソフトで3Dプリンター用のデータは作れるのだろうか?」あるいは「3DCADソフトを新調しなければならないだろうか?」などと疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか。
そこで本稿では、
- 3Dプリンターで使われるデータ形式
- 3Dプリンター用データの作成方法
を解説して疑問を解消し、最後におすすめの3DCADソフト7選をご紹介します。
本稿を読み終わる頃には「3Dプリンターに求められるソフトの条件」への理解が深まるでしょう。ぜひ参考にしてください。
3Dプリンターで使われるデータ形式
はじめに、3Dプリンターで使われるデータ形式を確認していきましょう。
ここでは、XYZPrinting社の「PartPro200 xTCS」を例にご紹介します。
製品仕様には次のように書かれています。
項目 |
詳細 |
印刷性能 |
カラーインクジェット |
造形方式 |
熱溶解積層方式(FFF) |
・・・ |
(略) |
対応可能なファイル形式 |
.amf 、.ply、 .obj、.stl、.3cp、.3mf |
対応可能なファイル形式は、3Dプリンター毎に異なります。その中でも、ほとんどの3Dプリンターが対応しているファイル形式が「STL(Standard Triangulated Language)」形式です。3Dプリンター用のソフトを検討する際には、「STL形式のファイルを生成できるか?」を忘れずに確認しましょう。
STL形式は白黒のみの造形に対応するフォーマットです。フルカラーで作成するには「PLY(Polygon)形式」などのデータ形式で作る必要があります。造形方式によって適したデータ形式がありますので、作成したいものに応じて、事前調査するようにしましょう。
3Dプリンター用データの作成方法
3Dプリンターで使用するデータは、「3DCAD」、「3DCG」、「3DSCAN」の3つの方法で作成することが可能です。
3DCAD(3D Computer Aided Design)
3DCAD(3次元コンピュータ支援設計)は、建築設計から工具や試作品の設計など、製造における様々なシーンで使われています。詳細な条件の指定が可能なので、完成品の精度を高められます。
精度を重視した3Dプリントを行う場合は、初めに検討したいデータ生成方法です。
3DCG(3D Computer Graphics)
3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)は、3次元空間にある仮想的な立体物を2次元の平面上の情報に変換する技術です。3DCADと比べると細かな設定には向いていませんが、形状や色合いなどデザイン性を重視したモノづくりに適しています。
フィギュアや試作品など、精度よりもデザイン性を重視して造形を行いたい場合に適したデータ生成方法です。
3DSCAN
3DSCANは、3Dスキャナーを使用し、物体の3次元データを取り込む方法です。対象物の3次元座標(x、y、z)を幅広く収集する必要があるため、一般的に、3DCADや3DCGに比べて精度は落ちますが、設計が不要で、自動でデータを生成できるという強みがあります。
新型コロナウイルスで話題となった「フェイスマスク」など、一定の大きさがあり、座標データが取りやすいモノに適したデータ生成方法です。
3Dプリンターデータの作成方法についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
3Dプリンター用3DCADソフトとは?
「3Dプリンター用3DCADソフト」とは、その名の通り3Dプリントにおける設計から検証までを一貫して行えるソフトウェアです。
一般的な3DCADソフトとは違い、造形時に想定されるエラーをデータ生成の時点で発見しやすいことが特徴で、造形精度の向上が期待できます。
3Dプリントでは次のようなエラーや失敗が想定されます。
- 設計通りに造形されなかった
- 設計不備、あるいはデータの変換ミスなのかの判別が難しい
- 造形後にモノの結合部分が剥がれ、壊れた
3Dプリンター用の3DCADソフトを使用することで、これらのエラーを予測することが可能です。仮に造形が上手くいかなかった場合でも、問題を絞り込んで原因追及ができますので、修復作業の効率も上がるでしょう。
おすすめ3Dプリンター用3DCADソフト7選
ここではおすすめの3Dプリンター用3DCADソフトを7つご紹介します。
ぜひ、ソフト選びの参考にしてください。
①Fusion 360/Autodesk
Autodesk社の「Fusion360」は、「CAD」、「CAM」、「CAE」の機能を統合したソフトウェアです。設計、シミュレーション、製造までの一連のプロセスを、単一のプラットフォーム上で管理できます。同社は複数の3DCADソフトを取り扱っていますが、その中でもFusion360は人気のシリーズです。
無料体験:可
②Inventor/Autodesk
Autodesk社の「Inventor」は、製品開発や機械設計のための 3DCADモデリングソフトウェアです。クラウドベースの作業が可能で、離れた場所にいてもチームで情報を共有しながら作業ができます。設計作業に集中できる「パラメトリックモデリング」や、アセンブリレベルで設計を組み合わせて機能させる方法「アセンブリモデリング」など、様々なモデリングに対応しています。
無料体験:可
③SolidWorks/Dassault Systemes
Dassault Systemes社の「SolidWorks」は、3Dプリンター用3DCADソフトの人気シリーズで、最新バージョン「SOLIDWORKS 2020」がリリースされています。従来のバージョンに比べて、パフォーマンス向上やワークフローが効率化されており、設計から製造までを統合されたプラットフォームで行うことで、よりすばやい製品化が可能です。用途に応じて、「SOLIDWORKS Standard」、「SOLIDWORKS Professional」、「SOLIDWORKS Premium」の3シリーズが用意されています。
無料体験:可
④CATIA/Dassault Systemes
Dassault Systemes社の「CATIA(キャティア)」は、「製品デザインを体験する」をコンセプトとした、3DCADソフトウェアです。一元管理された3Dダッシュボードを通じて、設計・シミュレーションなどの各工程情報を関係者間で共有できます。
無料体験:要問い合わせ
⑤Magics 3D Print Suite/Materialise
Materialise社の「Magics 3D Print Suite」は、一つのパッケージに3Dプリンター事業に必要なソフトが詰まっている製品です。3Dプリント用の詳細設計と最適化を行う「Materialise 3-matic」、3Dプリント用のデータを準備する「Materialise Magics」、ハードとソフトの連携を担う「Materialise Build Processor」など、多様なニーズに対応した製品が揃っています。家にあるデバイスからオンラインで各工程を確認することが可能で、リモートワークでも3Dプリント設計・開発をチームで進められます。
無料体験:可
⑥Cimatron/3D Systems
3D Systems社の「Cimatron(シマトロン)」は、見積もりから設計、設計変更適用、NCプログラミング(※)まで、プロジェクト全体をサポートしてくれます。
※:NCプログラミング:Numerical control(数値制御)プログラミング
モールド作成、金型作成、電極まで幅広い部品製作に対応していますので、試作品から実際の製造まで幅広い3Dプリントに使えます。
無料体験:可
⑦VECTORWORKS 2020/A&A
A&Aの「VECTORWORKS2020」は、インターフェイスが直感的で分かりやすく、作図しやすい環境を提供しています。基本パレットには作図ツール、ツールセットには作図補助やモデリングツールが格納されており、設計者のデザインサポートしてくれる機能が充実しています。「Architect」、「Landmark」、「Spotlight」、「Designer」の4つの製品ラインナップがあります。
無料体験:要問い合わせ
まとめ
3DCADソフトは、設計から製造まであらゆる工程で価値を発揮します。
現在お使いの3DCADソフトが3Dプリンター用のデータ出力に対応しているのであれば、新調する必要はありません。しかし、プリンターによっては扱えるデータ形式に違いがありますので注意が必要です。
3Dプリンター用の3DCADソフトを選ぶ際には、まずは「既存の3DCADソフトのままで運用するのか?」、「新調するのか?」を検討することから始めることが大切です。
既存の3DCADソフトを使用する際には、3Dプリンターとの相性を確認するためにも、プリントサービスなどを活用して実際に造形してみるのが良いでしょう。
また、3Dプリンター用の3DCADソフトは無料体験が可能であるケースが大半です。3DCADソフトの新調を検討する際には、まずは無料体験を活用して、操作性やコストパフォーマンスなどをチェックし、自社に適したソフトウェアを選びましょう。